2月12日、丸ビルホール(東京・千代田区)にて、第9回京都大学―稲盛財団合同京都賞シンポジウム(KUIP)が開催されました。4年ぶりのリアル開催となりましたが、会場は高校生も含め約200名の聴講者でほぼ満員となりました。今回のテーマは「数理が見る世界」。最先端の数学理論と、それらのビッグデータ解析や材料科学などへの応用について、三人の登壇者が語りました。
一人目の登壇者、京都大学高等研究院の平岡裕章教授は幾何学の一つ「トポロジー(位相幾何学)」の概念について分かり易く解説し、これの様々な応用法について語りました。ビッグデータが含む一個一個の要素を複数次元の座標情報を持つ点として扱い、そのトポロジー的な特徴を抽出することでデータ全体の大まかな構造をつかめるといいます。さらに、このデータ解析手法の活用について、材料工学や生命科学、地質構造解析の事例を紹介しました。
次の登壇者、京都大学数理解析研究所の望月拓郎教授は、トポロジーで使われる〈ものさし〉(不変量)の一つ、「コホモロジー」について語りました。コホモロジーがなぜトポロジーの世界で使われるようになったのか、そしてコホモロジーとは何かについて、歴史的経緯を踏まえつつ解説しました。次いで、コホモロジーの理論がトポロジーの枠を超えて、様々な数学分野に拡張されてゆく様子について説明しました。
最後に登壇した小谷元子東北大学理事・副学長は、「離散幾何学」という数学を使って、原子同士のネットワークによって形作られる、物質のミクロレベルの離散的な構造と、同じ物質を実際に手に取ったときに感じられるマクロレベルの性質の関係を明らかにする試みについて説明しました。さらには、グラフェンやエラストマーの新規機能開発など、物質・材料科学のさまざまな領域で活用された成果を紹介しました。
3人の登壇者に加え2人のパネリストが参加したパネルディスカッションでは、数学が人工知能などを通じて社会に与えている影響や、パネリストが数学者になったきっかけなど、社会や個人と数学とのつながりについて活発な議論が交わされました。望月教授は数学と社会のつながりについて、「『三次元』のように数学の中で発展した概念が、われわれの世界に対する認識を広げてきた。最先端の数学が必ずしも今すぐ社会の役に立つとは限らないが、いつか何らかのモデルとして使われるようになるのかなと思う」と話していました。
(3月15日追記)KUIP公式サイトにて、本シンポジウムの動画配信を行なっています。
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