「こども科学2023」は、参加してくださったこどもたちはもちろん、保護者の方々や企画制作した人たちなど、たくさんの人の協力で開催できました。作った側、参加した側の皆さんの声を集めました。
「こども科学博2023」の監修とともに「京都 “キヅキ” ワークショップ」のブースで三葉虫のワークショップを担当した大野照文・京都大学名誉教授
今回の「こども科学博」全体でまず伝えたかったことは、生き物の多様性です。生命は、その35億年の歴史の中で、原始的なものや複雑なもの、動物や植物と、非常に多種多様な生き物を生み出しました。
いくつかの展示ブース、例えば「植物のヒミツの力」では、身近だけれど生き物としては人間からは遠い存在である植物が、積極的に生きるために工夫をしていることを、最新のビジュアル技術を使ってこどもたちに伝えました。「観察!発見!どうぶつミュージアム」では、さまざまな動物の本当に生きているかのようなリアルな剥製標本を通じて、「イノチのコドウ」では、動物の体の大きさによって心臓の鼓動の速さが異なることを通じて生き物の多様性に気づいてもらうことをねらいました。
もうひとつ、こどもたちにこのイベントで気づいてもらいたかったことは、彼ら自身が持っている可能性です。こども科学博では参加型のワークショップがいくつもあるのも特徴のひとつですが、私が担当した三葉虫のワークショップでは、私が「いじわる質問」をこどもたちに投げかけることで、三葉虫がどんな生き物でどんな風に生きていたか、彼ら自身の力で考えてもらいました。そして2億5千万年前に絶滅していた生き物がどのように身を守っていたのか実演してもらい、最後に本物の化石で答え合わせをしました。そこで得て欲しかったキヅキは、「自分たちにワクワクするようなことを発見する能力がある」、ということを自分たち自身で発見するというキヅキです。こどもたちには、「この世界には楽しいこと、知らないことがたくさんあるんだ、そして自分たちでそれを見つけられるんだ」ということを知って欲しいですね。
子どもたちに質問を投げかける大野照文先生 「ワークショップ『三葉虫』」
こども
ウサギ、ネコはかわいいから人気だけど、ヘビとかは気持ち悪いと思う。進化の結果そうなったのだと思うけど、なんでかわいいと思う動物と、気持ち悪いと思う動物がいるんだろうと不思議に思いました。
―なんでだと思う?
かわいいの特徴は、丸くて小さくて、もふもふ。虫とかは細くて、でかくて、真反対の特徴をしてるから?
リンクスの剥製標本 「観察!発見!どうぶつミュージアム」
キヅキノキ・ミニステージでトークを担当した科学コミュニケーターの本田隆行さん
ヘビはやわらかいのに、脱皮する。ウロコで覆われているから?でも、魚は脱皮しない。カメは、は虫類でウロコに覆われているのに、脱皮しない。と考え始めると、「みんな分からない」となって。大学院生に聞いても分からないと。みんなしてどんどん分からなくなって、大人と目が合わなくなって、面白かったですね。「今度京都市動物園の熱帯動物館に行って、飼育員さんに聞いてみよう」と言いました。あとは、魚はウロコが大きくなっていくのですが、「ヘビのウロコも大きくなるのか、もし大きくなるなら脱皮する必要がないんじゃないかとか、いろんなヘビを見に行って、みんなで調べてみて、誰か分かったら、京都大学に行って教えてあげて」って。「ヒトは脱皮するのか?」というたった1個のキヅキから、15分くらい話していました。
みんなのキヅキについて参加者とお話する本田隆行さん 「キヅキノキ・ミニステージ」
こども
動物を観察して、飛ぶ動物のなかでも、飛び方が違っているのに気がつきました。紙飛行機を作ってみて、尻尾の部分を曲げたり、角度を変えたりしたら飛び方が変わりました。羽根を折り曲げたり、平らにしてみたりしたら、よく飛ぶようになりました。
アホウドリの紙飛行機、うまく飛ばせるかな 「いきものヒコーキ工作」
「大学院生の相談コーナー」でこどもたちの相談を受けた大学院生
鋭い質問がありました。私は実験をやっているのですが、実験用のマウスは品種改良されて、使いやすいようにしています。小学4年生のお子さんに、「それ(品種改良されたマウス)からとったデータは本当に正しいのか?」と聞かれました。「それぞれ個体差があるのにそれを応用していいのか?」と。そういうものを何気なく使っているので、ちゃんと答えられなくて。条件をそろえて別の要因を排除して、きちんと原因をつきとめたいからと答えました。当たり前が当たり前じゃないと気づかされました。その子は、いろんな質問をストックして聞いてくれました。
わからないことは大学院生のお兄さん・お姉さんにきいてみよう 「大学院生の相談コーナー」
こども
―大学院生にはどんなことを聞いたの?
「シカがサルのうんちを食べてもなんで病気にならないの?」と聞きました。
―大学院生はなんて言ってた?
倒れることもあるかもしれないけど、今まで見たことないから、大丈夫じゃないかって。
―それについてどう思った?
大丈夫じゃないかもしれないけど、サルのうんちを食べているシカの勇気がすごいなって思いました。
―ほかにどんなコーナーをまわった?
紙ヒコーキと鼓動のやつと、植物のヒミツの力。
―どれが一番面白かった?
うんちのところが一番おもしろかった。
さわれるうんちの展示 「どうぶつ『うんち』のわかっていること・わかっていないこと」
まるで生きているかのようにリアルな剥製が目を引く「観察!発見!どうぶつミュージアム」を企画した、国立科学博物館の池本誠也さん
国立科学博物館(科博)では常設展や企画展でさまざまな生き物の標本を展示していますが、ミュージアムで展示しきれない標本が筑波の研究施設にたくさん眠っています。そんな科博のコレクションの一部をこのような巡回展用のセットとして組みました。今回展示している大型の剥製標本はハワイの実業家、故ワトソン・T・ヨシモト氏から寄贈された「ヨシモトコレクション」の一部で、剥製標本としてはこれ以上無いほど質の高いものです。
小型展示に使った引き出しのギミックは、巡回展用にセットをコンパクトにするだけでなく、未知とふれあうワクワク感の演出や、親子の対話の機会を創出することも狙っています。引き出したとき、しまうときの感触にもこだわっています。子供たちが引き出しに乗ったりぶら下がったりするのでメンテナンスが大変なのが玉にきずですが。
キャビネットの引き出しを開けると何が出てくるかな?「観察!発見!どうぶつミュージアム」
こども
シカの角が6種類くらいあるのがびっくりしました。こんなに種類があって、どんな役に立つのかなと思いました。
シカの足元にほとんど毛がなかった。毛があると重いのかな?
動物の角の形はどうしてこんなに違うんだろう?「観察!発見!どうぶつミュージアム」
いろんな動物の頭の骨を触って姿や行動を考える「さわれる骨の博物館」を企画した、路上博物館館長の森健人さん
博物館の多くの展示では、文章を読んで、ガラス越しの展示を見るだけで、わかった気になってしまいがちだけど、触ることで初めて頭に刻まれていくと思うので、言葉だけでなく、触って実感してもらうことを大切にしてこどもたちと接しています。例えば、トラの頭骨を観ている子に、どこが鼻かな、どこが目かな、どこが耳かな、と問いかけると、耳はけっこう悩まされる。自分の顔を触ってごらんと促すと、耳は頬骨をずっと辿っていったところにあると気づく。そんなふうに、動物たちと自分は、実は同じかたちをしているんだということに気づくと、動物について考えるときに、自分の身体を出発点に考えるとどうだろうか、という考え方ができるようになるかもしれない、と思っています。
「さわれる骨の博物館」で参加者に解説する森健人さん
こども
キャベツはハチに助けてって伝えていると聞いたのですが、どうやって呼びかけているのだろうと、不思議に思いました。僕は生物学者が夢で、大学院生の人に、どうやったらなれますかと聞いてみたのですが、動物園に行っていっぱい勉強したらいいよって言われて、がんばろうと思いました。もっと動物について学んで、将来の夢をかなえたいと思いました。
植物も生きのびるために他の生き物とおしゃべりする!? 「植物のヒミツの力」
お母さん
とっても魅力的なコーナーがたくさんありました。息子は5年生になり興味がかたよってきて、普段、生き物について学ぶ機会が少なかったので、今日は生き物について考えることができてよかったです。興味津々で見ていたので、さらに興味が広がってくれたらいいなと思いました。
キヅキをカードに書いて、キヅキノキ(背景)を育てよう!
木とテクノロジーとアートのつながりを感じる「ふしぎモクモク」を企画した、つくるまなぶ京都町家科学館の宿野秀晴さん
木は私たちの生活にどのように役立っているのか、ということに気づいてもらいたいです。木は家も作れるし、燃料にもなるし、おもちゃや工芸品にもなるし、楽器にもなる。STEAM教育の視点で、五感を通じて展示を体験できるように工夫しました。炭を観察して、炭って木なの? 鉛筆みたい、おばあちゃんの家にあったよ、という思い出話につながった子もいました。おばあちゃんの家ってこんな町家だったね、という反応もあり、自分が体験したことを思い出して伝えられたのが良かったと思いました。生活のなかに科学の恩恵を受けていることも多いけれど、気がついていないことも多い。気がつくと、学びが豊かになるよね、ということを伝えたいです。
木の種類によって音の響きが違う!?「ふしぎモクモク」
お母さん
普段は身近な公園や森で、身近な生き物を観察しているのですが、きょうは大きな生き物の姿を間近で見られて良かったです。アリを粘土で作るワークショップでは、すごく集中して作っている姿を見られて良かったです。たくさんの子と一緒に作るので、深い会話はしていないけれど、他の子が作ったアリと見比べて、刺激になったと思います。
アリってどんな姿だったっけ!?「アリをねんどで作ってみると?」
DNAの模型をブロックで組み立てながら遺伝子について学べる体験型のワークショップ「はじめてのDNA教室」を企画した、一般社団法人SiCP代表の工藤光子さん
このワークショップは、ブロックの模型を組み立てる作業を通して、本来は目に見えないDNAを目で見て手で触れて、その初めて見る形を記憶に残してもらえれば、という思いでつくりました。今回の参加者は私たちが想像したよりもかなり小さな子が多くて戸惑いましたが、今は難しくて理解できなくても、いつか再びDNAに触れる機会があったときに、ご両親と組み立てた楽しい思い出とともに「そうか!」と再発見の感動を味わってもらえればいいなと思っています。まだ科学的な考え方になじみのないこどもたちに理解してもらうために今回工夫した点は、「生き物と、それ以外との違い」についてイントロダクションで問いかけたことです。その違いのひとつがDNAの有無だよという話の流れで話を進めました。
今回得られた一番の収穫は、小学生から50代まで、幅広い世代の人たちがDNAの模型づくりを通じて年齢やコミュニティの垣根を越えたつながりを得られたこと、そして生き物の不思議について対話する機会を持てたことだと思います。
DNAのはたらきについて解説する工藤光子さん「はじめてのDNA教室」
「稲盛財団Magazine」は、稲盛財団の最新情報を配信するメールマガジンです。メールアドレスのみで登録可能で、いつでもご自身で配信解除できます。