3S交流会を終えて
─ポスター発表者、今年度助成対象者の声─

稲盛研究助成のこれまでの対象者が参加する「盛和スカラーズソサエティ(3S)交流会」。今年も昨年に続いてポスター発表で活発な議論が交わされました。交流会を終えたばかりの発表者と今年度の助成対象者の方に、感想を聞いてみました。

稲盛研究助成金贈呈式と3S交流会のレポート記事はこちら

ポスター発表者


伊藤パディジャ綾香さん(名古屋大学 環境医学研究所 講師)
発表タイトル:脂質代謝による自己免疫応答制御機構の解明

コメントが新鮮で、自分の研究の重要性を認識できました

経済学や工学など、医学生物系ではないバックグラウンドを持つ方もたくさん聞きに来てくださり、「日頃の食事はどうしたらいいですか?」といったコメントが新鮮で、同時に自分の研究の重要性を認識できました。口頭発表やシンポジウムで専門の先生からコメントをいただくことはありますが、今日のようにフランクに話す機会はあまりないです。口頭発表だと立ち上がって質問しづらいようなこともポスター発表では気軽に質問できるし、他分野の先生方もいらっしゃるので、とてもよい場だなと思いました。生殖細胞での栄養代謝を研究されている先生と、今後一緒になにかできることがあるかなと話したり、工学系の先生で、脂質の輸送などを研究されている方の話を聞いて、より効率よく特定の免疫細胞に脂質を届けるために何かできるだろうかと考えたりしました。今後、「薬で治療」ではなく、「食事で予防」するにはどうしたらいいかを提案し、持続可能な医療システムに貢献できたらいいなと思っています。

 


戸田浩史さん(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 助教)
発表タイトル:新規睡眠誘引因子’Nemuri’の分子メカニズム:液ー液相分離と睡眠

ふと思った疑問って大切ですよね

植物や歴史の研究者など、普段お話する機会がほぼない分野外の先生方からも声をかけていただいて、コメントをいただいたり、逆に質問にお答えして、なるほどねと思っていただけたりしてすごく良かったです。私の研究分野は睡眠なのですが、日本人は睡眠の質が悪いと言われていて悩んでいる人も多く身近な問題なので、興味を持ってもらえたのだと思います。調子悪いなと思っているときに、寝ると翌朝に回復してることって多いじゃないですか。この理由を質問されたのですが、まさに自分がこれからやりたいと思っていることなんです! というやりとりがありました。恐らくふと思った疑問だと思うのですが、そういう疑問はけっこう大切ですよね。本質的だと思います。自分が大切だと思っていることが、他の方も知りたいと思っていることだと確認できたという意味でも、ポスター発表に参加して良かったと思います。

 


田暁潔さん(筑波大学 体育系 准教授)
発表タイトル:マサイ社会における子ども文化:日常行動と昔話からの読み解き

異なる視点からのヒントがもらえました

ポスターには他の分野のいろいろな先生方から興味を持っていただき、予想外のコメントや質問も楽しかったです。発表では、マサイ社会では実践的な社会参加を通した教育が子どもに行われていて、大人が伝える昔話の中に役に立つ植物や紛争の解決などの、牧畜民として生きるための実践的な知識が含まれている、という話をしましたが、ある理系の先生からはこの話にとても興味をもっていただきました。これらの昔話は口承文学なのですが、その成立にもしかするとほかの地域からの影響があるかもしれないという指摘をいただきました。これについては今まで考えたことがなかったので、大学に戻ったら周辺地域との交流と比較しながら調べてみようと思います。

 

今年度助成対象者


林克磨さん(京都大学 大学院医学研究科 特定助教)

完全に学部も違うような研究の話を聞く機会は少なく、参加してよかったです

ポスター発表では、国際刑事裁判所(ICC)や、植物の自家不和合性システムに関する研究のお話を聞きました。私は公衆衛生の研究をしているので、同じ分野の先生の研究の話を聞くことはよくあるのですが、完全に学部も違うような研究の話を聞く機会は少なく、参加してよかったなと思いました。私は、感染症が人から人へうつるメカニズムを数理的に記述することを研究テーマにしています。もともと感染症メカニズム自体に関心があったのですが、新型コロナウイルスが感染拡大する中で、ただ単に感染メカニズムを解明するだけでは、政策的意思決定、特に複数の人が関わる意思決定につながらないケースがあると感じました。人によって研究結果がもつ意味合いが変わってくるのは当たり前だと思うので、今後は、一つの研究が複数の人が関わる意思決定にどう影響を与えるのか、といったメカニズムも明らかにしたいと思っています。

 


山道真人さん(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 准教授)

身近な問題について気づきを得られました

初めて稲盛財団の研究費をいただきましたが、贈呈式や過去の助成対象者との交流が新鮮でとても感銘を受けました。私と同じ生物学の分野はもちろん、全く別の分野、文系の方でもとても面白いテーマがあって良い刺激を受けました。例えば履歴書の写真が採用にどのように影響するのかという研究は、就職活動をしている研究者にとっては身近な問題かなと思いましたし、集落の消滅問題についての研究では私の地元の問題が想起されました。私自身は生き物が環境の変化に対応して迅速に進化するしくみについて研究しています。マイクロコズム(人工的に外部と隔離した生態系)の培養実験でこのしくみに挑んでいて、具体的にはフラスコの中で6種の植物プランクトンを同時に培養し、塩分濃度などの環境要因を色々なパターンで変化させることによって、どのような進化や絶滅が誘発されるかを観察しています。

 

「稲盛財団Magazine」は、稲盛財団の最新情報を配信するメールマガジンです。メールアドレスのみで登録可能で、いつでもご自身で配信解除できます。

ニュース一覧へ戻る