稲盛研究助成に採択していただき,誠にありがとうございます。心理物理学の研究手法にもとづき,文理融合の幅広い視点から読文機能を理解したいと考えています。
文章を滑らかに読み正しく理解すること(読文)は人間特有の能力であり、ヒトが社会生活を送る上で重要な認知機能の一つである。本研究では、基礎的な視覚情報処理と日本語の読文能力の関係を検証し、読文機能の心理学的基盤の一部を明らかにした。心理物理実験において、視覚運動の検出と速度弁別、注意による追跡の3種類の視覚課題成績を測定した。また読文機能の指標として、文章音読速度、文章中の転置文字の検出成績、言語性IQ(Japanese Adult Reading Test)を用い、心理物理実験と同一の被験者(46人)からデータを収集した。被験者間相関分析の結果、異なる読文機能の指標(統合的な指標として算出された主成分)と、速度弁別及び注意追跡の成績の間に相関がみられた(被験者の年齢の効果を差し引いても相関がみられた)。これらの結果は、英語の読文能力に関する先行研究とおおまかに一致することから、言語に依存しない基礎的な視覚情報処理が読文能力と一定の相関関係をもつ可能性を示唆している。この相関関係が複数の互いに直交した読文成分にもとづく可能性も示唆された。具体的には、転置文字の検出に反映される逐次的言語処理や言語性IQに反映される予測的言語処理と運動処理の関連、音読に反映される時間処理と注意処理の関連などが考え得る。以上の成果について、日本視覚学会で発表(中山ほか、2024 「和文読文能力と動的視覚情報処理の相関関係の検討.」)したのち、国際学術誌に掲載された。
Nakayama R et al. (2024). Evaluating correlations between reading ability and psychophysical measurements of dynamic visual information processing in Japanese adults. Scientific Reports, 14, 29546. https://doi.org/10.1038/s41598-024-80172-0
人文・社会系領域