稲盛財団の研究助成により本研究を推進できることを大変光栄に思います。これを励みに、未知の領域の開拓を目指し日々研究に邁進いたします。
本研究では、胎児期に形成され、その後雌雄それぞれに特徴的な分化を経て精子と卵になる生殖細胞について、重要な働きをする代謝系を抽出し、その役割を明らかにすることを目的としました。主に細胞の材料となる低分子化合物の合成や分解に関わる経路全般を代謝と呼びますが、近年では、この変化による特定の代謝物量の増減が、遺伝子のオンオフやそれを司るエピゲノム(DNAやヒストンに付けられる遺伝子発現を調節するマーク)の制御に関わることが報告されています。そのため、生殖細胞が分化していく過程でどのような代謝系が亢進・抑制されるかは、生殖細胞分化の調節に関わる重要な課題でしたが、特に胎児期の生殖細胞ではその変化の多くは不明でした。今回我々は、胎児期生殖細胞の代謝状態の性差を詳細に解析した結果、オス生殖細胞ではクエン酸回路やセリン代謝が亢進している一方、メス生殖細胞ではピルビン酸代謝や脂肪酸代謝が亢進していることを明らかにし、論文発表しました。さらに研究を続けた結果、オス生殖細胞では、セリン・グリシン・メチオニンといったアミノ酸の代謝系が全体的に亢進しており、これらの代謝系を妨げるとオス生殖細胞の分化やエピゲノム状態が変化することを見出しました。一方、メス生殖細胞で亢進していたピルビン酸代謝は、遺伝子発現の調節を介して卵胞の形成において重要な役割を果たすことを明らかにし、論文報告しました。
生物・生命系領域