発生初期に、神経上皮細胞が増殖し、やがて神経幹細胞に分化して神経産生を始める。神経上皮細胞の数は、神経幹細胞を介して、最終的な神経の供給量を決めるため、神経幹細胞への分化時期は厳密に制御される必要がある。しかし、神経上皮細胞から神経幹細胞への適時な分化を制御する分子メカニズムは、ほとんど明らかになっていない。我々のグループでは、ショウジョウバエを用いて、TCF4/Daughterlessが分化のタイミングを決定する重要な因子であることを見出した。TCF4/Daughterlessの変異体では、神経上皮細胞は分化を開始したが、完了しなかった。さらにTCF4/Daughterlessの標的遺伝子としてNotchを見いだした。実際に、Notchシグナルを異所的に活性化した場合、TCF4/Daughterlessの変異体と同様の表現型が見られた。この結果は、TCF4/DaughterlessがNotchシグナル伝達経路を直接的に不活性化し、神経上皮細胞から神経幹細胞への分化を最適なタイミングで完了させることを示している。以上のことから、TCF4/Daughterlessは、分化しつつある神経上皮細胞において、次の状態に移行するか、あるいは現在の状態に留まるかの決定に関与すると考えられる。
Chika Akiba, et al. (2024) bHLH family proteins control the timing and completion of transition from neuroepithelial cells into neural stem cells. Development 151 (18) doi: https://doi.org/10.1242/dev.202630
生物・生命系領域
