InaRIS フェロー (2022-2031)
東北大学 電気通信研究所教授※助成決定当時
2022InaRIS理工系
AI の発展において、1980年代になされたジョン・ホップフィールドによる脳の記憶の仕組みとスピングラスの類似性に関する指摘や、ジェフリー・ヒントンらによる統計力学の基本則であるボルツマン分布を利用した学習の提案が重要な役割を果たしている。しかし、これらの計算アルゴリズムを逐次的かつ決定論的な演算を基礎とする現行のコンピュータで実行すると計算量が膨大となってしまうため、現在のAIでは、制限ボルツマンマシンなど、それらの直接の活用は限られている。
今回の深見氏の研究提案は、物質・材料が備える「知能」を、人工構造によって制御することで引き出し、複雑な物理法則に従う物理系をコンピューティングの舞台として構築することにより、上記のホップフィールドやヒントンらのオリジナルの発想をそのまま具現化するという野心的な構想である。深見氏はこれまでに、不揮発性磁気メモリ(MRAM)向け高機能材料・素子などの現行のコンピューティングを発展させる素子技術を探究するとともに、スピントロニクス技術によるデバイスを用いた脳型コンピューティングおよび確率論的コンピューティングの原理実証を実現するなど、本提案の礎となる重要な研究成果を達成してきている。今回の提案は、さらに物質・材料における「知能」の探索を推進するとともに、その「知能」の適用対象を、アルゴリズムやアーキテクチャにも拡張しようとするものである。
深見氏は、スピントロニクス技術に立脚した新規コンピューティング開発を世界的にリードする気鋭の研究者である。InaRISフェローシップの支援により、今後10年間で、同氏が、物質・材料の新たな「知能」を開拓するとともに、それに基づいてコンピューティング技術に革新をもたらすことにより、情報科学など幅広い学術領域との融合を実現し、「物質・材料」研究の新パラダイムの創成に貢献することを期待する。
理工系領域