InaRIS フェロー (2022-2031)

深見 俊輔 Shunsuke Fukami

東北大学 電気通信研究所教授※助成決定当時

2022InaRIS理工系

採択テーマ
人工制御による物質・材料の「知能」の発現とコンピューティングへの展開
キーワード
研究概要
現行の逐次的かつ決定論的なアルゴリズムに基づく人工知能で、高度な情報の認識や判断などを行う場合、膨大な計算量と電力が必要になる。このような問題をもっと効率的に計算できるコンピュータが開発されれば、二酸化炭素排出量の抑制にも繋がる。人工知能の源流となっているアルゴリズムのいくつかは、アナログ性、確率性、双方向性など物質・材料の固有の性質に基づいている。本研究ではこの点に着目し、このような物質・材料の固有の性質を利用し、人工知能の源流にあるアルゴリズムを自然に実行できる新しいコンピュータの開発を目指す。これまでのスピントロニクス研究において、新しいコンピュータへの応用が可能と思われる未利用な物質・材料の性質とその素子化がすでに検討されており、開発に向けた一歩が踏み出されている。

 


選考理由

現代の情報社会を支えるコンピューティング技術は、1936年にアラン・チューリングが提唱した概念と、1945年頃にジョン・フォン・ノイマンらが提案したアーキテクチャを基礎に、半導体集積回路技術の発展に支えられて、半世紀にわたって指数関数的に性能を向上させてきた。最近では、人工知能(AI)と総称されるソフトウェア技術の発展により、認識や予測などの高度な処理も可能となり、それらに特化したハードウェアも開発されている。しかし、既存の集積回路技術に依存する現在の手法には限界が見えており、従来のアルゴリズム、アーキテクチャとは根本的に異なる革新的なコンピューティング技術の開発が求められている。


AI の発展において、1980年代になされたジョン・ホップフィールドによる脳の記憶の仕組みとスピングラスの類似性に関する指摘や、ジェフリー・ヒントンらによる統計力学の基本則であるボルツマン分布を利用した学習の提案が重要な役割を果たしている。しかし、これらの計算アルゴリズムを逐次的かつ決定論的な演算を基礎とする現行のコンピュータで実行すると計算量が膨大となってしまうため、現在のAIでは、制限ボルツマンマシンなど、それらの直接の活用は限られている。


今回の深見氏の研究提案は、物質・材料が備える「知能」を、人工構造によって制御することで引き出し、複雑な物理法則に従う物理系をコンピューティングの舞台として構築することにより、上記のホップフィールドやヒントンらのオリジナルの発想をそのまま具現化するという野心的な構想である。深見氏はこれまでに、不揮発性磁気メモリ(MRAM)向け高機能材料・素子などの現行のコンピューティングを発展させる素子技術を探究するとともに、スピントロニクス技術によるデバイスを用いた脳型コンピューティングおよび確率論的コンピューティングの原理実証を実現するなど、本提案の礎となる重要な研究成果を達成してきている。今回の提案は、さらに物質・材料における「知能」の探索を推進するとともに、その「知能」の適用対象を、アルゴリズムやアーキテクチャにも拡張しようとするものである。


深見氏は、スピントロニクス技術に立脚した新規コンピューティング開発を世界的にリードする気鋭の研究者である。InaRISフェローシップの支援により、今後10年間で、同氏が、物質・材料の新たな「知能」を開拓するとともに、それに基づいてコンピューティング技術に革新をもたらすことにより、情報科学など幅広い学術領域との融合を実現し、「物質・材料」研究の新パラダイムの創成に貢献することを期待する。


助成を受けて

他の研究助成プログラムには出せないような妄想に近い研究を提案し、採択して頂きました。ワクワクした気持ちと10年で形になるのかという不安が半々ですが、精いっぱい頑張ります。学際的な要素の多い研究になると思いますので、InaRISの枠組みを通して様々な方とお会いし、研究を発展させていけるのを楽しみにしております。

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