本テーマを採択頂き、誠にありがとうございます。本研究を通じて、興味深い有機構造に着目することで材料化学に新たなトレンドを生み出していきたいと考えております。
近赤外光は生体透過性の高さからバイオイメージングに用いられ、また、透明性の高さや減衰性の低さから光通信の分野において大きな需要が見込まれます。さらにIoT時代や革新的医療分野の発展伴い、その需要はますます増加していると言えます。そこで私は、高効率近赤外発光性を示す汎用性の高い構造の必要性を意識し、新たに縮環型アゾベンゼンスズ錯体を提案いたしました。
本研究成果では、超原子価アゾベンゼンスズ錯体を合成することで、その光学特性を調査しました。その結果、共役長を拡張せずとも深赤色領域に発光を示す化合物が得られることが分かりました。さらに、超原子価スズ錯体が五配位から六配位状態へと変化することで、錯体の発光色が短波長化する現象を見出すに至りました。六配位状態への変化は粉末を溶媒蒸気に暴露することによっても容易に進行し、世界で初めて超原子価結合を利用したベイポクロミズムを発見しました。三中心四電子結合という超原子価結合特有の結合様式がπ共役系のエネルギー準位に大きく影響を与えることを実験的・理論的に証明しました。これらは一般的な共役系構築では実現困難な性質であり、超原子価錯体ならではの特徴あると言えます。今後、本成果で得られた超原子価スズ錯体を用いることで、高効率近赤外発光性共役系高分子の合成が可能となり、未来の科学技術の発展に大きく貢献できると期待しています。
Gon M, Tanaka K, Chujo Y (2021) Vapochromic Luminescent pi-Conjugated Systems with Reversible Coordination-Number Control of Hypervalent Tin(IV)-Fused Azobenzene Complexes. Chemistry — A European Journal 27(27):7561-7571. https://doi.org/10.1002/chem.202100571
理工系領域