橋本 美涼 Hashimoto, Misuzu

岐阜大学 応用生物科学部助教※助成決定当時

2020稲盛研究助成生物・生命系

採択テーマ
メチル化修飾分子の同定による中枢神経ミエリン形成メカニズムの解明
キーワード
研究概要
中枢神経系はニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトにより構成される。オリゴデンドロサイトが作るミエリンはニューロンを鞘状に包み、神経伝達を加速させる。ミエリンが破壊される脱髄疾患の治癒にはミエリンの再生が求められるが、ミエリン形成・再生の分子機構の全容は未解明である。
本研究では、ミエリン形成に必須のメチル化酵素“PRMT1”が、「どの分子をメチル化し、ミエリン形成に寄与するのか?」との課題に取り組む。本研究成果を、ミエリン形成の新しい仕組みの発見に繋げたい。

ひとこと

この度は採択頂き誠にありがとうございます。ミエリン研究分野の発展に貢献したいと思います。

研究成果の概要

脳はニューロンが神経伝達を行うことで高次機能を発揮しますが、それに欠かせないのがニューロン周囲を埋め尽くすグリア細胞です。私は、グリア細胞発達不全を起こすマウスの解析により、その発達の仕組みの一端を解明しました。

グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトは、ニューロンの突起を鞘状に包むミエリン(髄鞘)をつくることで絶縁体として作用し神経伝達を加速させます。

また、細胞内の様々なタンパク質は、メチル化修飾を受けるとその機能を大きく変化させることが知られています。私はこれまでに、メチル化酵素PRMT1の欠損マウスの解析から、PRMT1がミエリン形成に必須であることを発見していましたが、その詳しい原因は不明でした。そこで本研究ではPRMT1がミエリン形成を制御する仕組みの解明を目的としました。

脳の遺伝子発現網羅的解析や組織解析により、PRMT1欠損脳では炎症誘導に関わる分泌因子がミエリン形成のピーク時期に先だって増加していることや、炎症を媒介するアストロサイトや免疫担当細胞:ミクログリアの数も増加し、脳の炎症状態が惹起されていることが判明しました。低酸素脳症や脳へのウイルス感染による脳炎では、ミエリンへの障害が観察されるという報告があることから、PRMT1欠損は脳の炎症状態を誘導することでミエリン形成を阻害したと推察され、さらにニューロン機能にも障害を与えることが考えられます。



  1. Hashimoto M, et al.  (2021) Loss of PRMT1 in the central nervous system (CNS) induces reactive astrocytes and microglia during postnatal brain development. J. Neurochem. 156: 834– 847. Epub 2020 Sep 12. https://doi.org/10.1111/jnc.15149  

  2. Hashimoto M, et al. (2021) Roles of protein arginine methyltransferase 1 (PRMT1) in brain development and disease. Biochim Biophys Acta Gen Subj. 1865(1):129776. Epub 2020 Oct 28. doi: 10.1016/j.bbagen.2020.129776



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