InaRIS フェロー (2024-)
東京大学先端科学技術研究センター教授※助成決定当時
2024InaRIS生物・生命系
星野氏はコーネル大学留学中に「がんは転移前に転移先が決まっており、転移先となる臓器は事前に耕されている」という前転移ニッチの概念に出合い、その研究を進める中で、マウスに肺転移性がん細胞由来のエクソソームを事前に静脈投与し、その後骨転移性のがん細胞を静脈投与するとその細胞自体には肺転移能がないにもかかわらず肺への転移が増加することを明らかにして、転移先の決定にがん細胞が産生するエクソソームが関与していることを示した。
星野氏はエクソソームの細胞間情報伝達ツールとしての可能性を示したパイオニアであり、このコンセプトは先駆的かつ独創的である。星野氏はさらにこのコンセプトをがん転移機転だけではなく精神神経疾患、母胎間臓器連関、老化にまで拡張しようとしている。すでに脳疾患関連エクソソームは血液脳関門を通過することを見出しており、今後は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder, ASD)、統合失調症、アルツハイマー病患者のエクソソームを解析し、診断マーカーを開発するのみならず脳と遠隔臓器との連関を調べることにより新たな病態解明に挑む。また母胎連関に関しては、ASD児母由来エクソソームを妊娠マウスに投与するとその仔が自閉症様行動を示すことを発見している。このように、母親のエクソソームが胎児に与える影響、逆に胎児や胎盤のエクソソームが母親に与える影響(妊娠高血圧症など)を明らかにする。老化に関してもすでに200例を超える健常人血漿エクソソームを採取しており、その詳細な解析によって老化現象におけるエクソソームの役割を解明する。これらの研究は、臨床医や工学系・物理化学系研究者、機械学習の専門家らとのコンバージェンスによって行われ、将来的にはエクソソームを用いた革新的医療の創出を目指す。
星野氏は東京理科大学理学部で応用化学を学び、東京大学で先端生命科学を専攻して学位を取得。コーネル大学医学部で9年間エクソソーム研究に携わった後に、東京工業大学准教授を経て2023年に東京大学先端科学技術研究センター教授として独立した新進気鋭の研究者である。遠隔臓器の細胞間情報伝達ツールとしてはホルモンがよく知られているが、なぜ生物はエクソソームというシステムを持つに至ったのか、連関の特異性はどういう機序によるものか、エクソソームに関する興味は尽きない。星野氏が10年間という時間を使って大きな絵を描いてくれることを期待する。
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生物・生命系領域