稲盛研究助成の採択を受けて、大変ありがたく光栄に思っております。助成金を最大限に活用し、災害対応や被災地の復興に不可欠なアクターである日本の災害ボランティアをテーマに、米国との比較を通して分析し、議論を深めたいと考えています。
本研究は、日米の事例検証や国際比較を通して、持続可能な復興を踏まえた災害ボランティアやNPO、NGOの役割や機能、人材育成について検討するものである。研究報告として、以下の3つの主要な研究成果に分けて報告する。
米国の災害ボランティアとして、Community Emergency Response Team(以下CERT)を検証した。CERTは、米国の災害ボランティアで、これまでに全米の50の州で2,700のCERT研修が実施され、延べ60万人以上がCERT研修を受講している。CERT研修は、一般市民を対象とし、地域で発生する災害に備え、対応できる人材を育成することを目的としていることが分かり、CERTプログラムを検証することは、日本の災害ボランティアの人材育成を考える上で重要であると考える(1)。
日本の災害分野の民間資格である防災士と、米国のCERTの概要を報告した上で、両者を比較した。その結果、研修の背景と目的、プログラムの内容、実施方法について、両者のプログラムは共通点があるものの、資格認定のための試験と費用、課せられた役割と資格取得後の実践活動において、相違点があることが明らかになった。このことから、より多くの人材が災害ボランティアに関わることができるよう、防災士の資格認定について再考する必要があることと、防災士の役割について明確にする必要があると提案している(2)。
東日本大震災の被災地である岩手県、宮城県、福島県で、2011年から2017年の間に活動したボランティア数の推移を把握し、要因を検討した。その結果、東日本大震災では、岩手県、宮城県、福島県を中心に、187か所の災害ボランティアセンターが設置され、阪神・淡路大震災以降の災害で最も多い、のべ154万5千人のボランティアが活動した。震災後1年間で100万人近いボランティアが活動し、その後減少するものの、2018年1月までの7年間、長期的にボランティアセンターが運営されれたことは、東日本大震災のボランティア活動の特徴である。ボランティア活動者数のピークは2011年5月で、インフラ復旧がすすんだことと、震災後の初めてのゴールデンウィークがあったことが要因である。また、ボランティアの月ごとの活動者数は一定のパターンがあり、3月と8月に増加している。その理由としては、長期休暇や震災が発生した月であることが要因と推測する。今後に向けては、規模の大きい災害が発生すると、ボランティアの活動者数は極めて多く、活動が長期にわかることから、研修やボランティアセンター立ち上げ訓練などをとおして準備をしておく必要がある。東日本大震災では多くの支援団体の施設やその職員が被災し、インフラ復旧も整わない中で、被災地外からの応援や後方支援を得ながら、ボランティアセンターの設置体制や運営環境を整えたことから、日ごろの協力や連携体制を整えておく必要がある(3)。
(1) 飯塚明子(2022) 「地域防災における人材育成―米国CERTの事例から―」、 地域共創による防災まちづくりシンポジウム、2022年12月9日。
(2) 飯塚明子(2023)「日本の防災士と米国における災害時のボランティア育成の取り組み」、 日台学者防災士交流討論会、 2023年3月3日。
(3) 飯塚明子(2023)「東日本大震災の災害ボランティア活動者数の推移と要因の検討」、東日本大震災特別論文集、12巻、12項から16項。
人文・社会系領域