脂質代謝と免疫応答のクロストークメカニズムを明らかにすることによって、これまでにない脂質に着目した自己免疫疾患の食事療法や食事に予防法の提案ができるよう頑張ります。
自己免疫疾患は、自己に対して免疫系が過剰に反応することで発症し、多くが難病指定されています。全身性エリテマトーデスは代表的な自己免疫疾患であり、国内の推定患者数は6〜10万人に上りますが、根治療法が確立されておらず、病態の発症や促進のメカニズムの全容も未解明です。
我々はこれまでに、免疫細胞における脂質代謝の破綻が、全身の炎症や自己免疫疾患の悪化につながることを世界に先駆けて報告してきました。この知見に基づき本研究では、異なる病因によって発症する2種類の全身性エリテマトーデスモデルマウスを用いて、オメガ3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)の経口摂取が、自己抗体の産生や腎糸球体への免疫複合体沈着などの特徴的な病態を改善することを見出しました。またそのメカニズムとして、EPAは、B細胞における脂質のダイナミックな量的・質的変化をもたらし、抗体産生細胞への分化を抑制することを明らかにしました。
以上の研究成果により、免疫細胞内の脂質代謝が細胞機能を変容させるメカニズムの一端が解明されました。また、EPAは魚油の主成分であり、日常の食生活に取り入れられること、また高脂血症治療薬として既に臨床応用されており、安全性が確認されていることから、EPAの摂取が全身性エリテマトーデスの新たな予防・治療法として有効である可能性が示唆されました。
Kobayashi A, et al. (2021) Dietary supplementation with eicosapentaenoic acid inhibits plasma cell differentiation and attenuates lupus autoimmunity. Front. Immunol. 12:650856. https://doi.org/10.3389/fimmu.2021.650856
生物・生命系領域