この度は稲盛研究助成にご採択いただき、誠にありがとうございます。今後より一層精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
CD4 T細胞は獲得免疫応答に必須の役割を果たすリンパ球です。我々の研究グループは、この細胞中に、新たな「Memory-phenotype cell (MP細胞)」を報告しました。MP細胞は、定常状態において末梢ナイーブ細胞が自己抗原を認識することにより産生され、病原体感染時には自然免疫的な様式で感染防御に寄与する、極めて特徴的な性質を有するTリンパ球です。さらに我々は、同細胞がT-bet(+) MP1、Gata3(hi) MP2、Rorgt(+) MP17等の複数のサブセットから構成される可能性を示唆する所見を得ました。これらの知見から、MP1/2/17細胞分画がそれぞれ固有の分化・活性化経路や自然免疫機能を有する可能性が類推されます。そこで本研究ではMP細胞の鑑別マーカーや分化機構、自然免疫的感染防御機能を解明することを目的としました。
研究の結果、MP細胞と外来抗原特異的すなわち「古典的」メモリー細胞とを鑑別するマーカーとしてCD127, Sca1, Bcl2が同定され、さらに、MP細胞自体がこれらのマーカーによって4分画(CD127(hi) Sca1(lo)、CD127(hi) Sca1(hi)、CD127(lo) Sca1(hi)、CD127(lo) Sca1(lo))に分類されることが明らかになりました。また、これらの分画のうちCD127(lo) Sca1(lo-hi)分画はナイーブ細胞から産生されたばかりの未熟MP細胞、CD127(hi) Sca1(hi)分画は成熟MP細胞を示すこと、後者分画はサイトカインIL-12/18/2に最も高い応答性を示すMP1細胞に相当することも分かりました。以上より、CD127(hi) Sca1(hi) T-bet(+) MP1細胞がMP細胞の自然免疫機能の主軸を担うことが明らかになるとともに、その活性をサイトカインの人為的投与により制御可能である可能性が示されました。これらの知見に基き、我々は、MP細胞の人為的活性化による新たな感染症治療戦略「免疫賦活化治療」を提唱します。
生物・生命系領域