局所的にいくつかの多項式の零点集合として表される図形を代数多様体といいます。中学校や高校で学んだ直線や円、放物線などは代数多様体の基本的な例です。円や放物線を考えるとき、その接線を考えることがありますが、その一般化として多様体の接空間を集めることにより、多様体の接束という図形が定まります。私は接束の正値性の観点から代数多様体の構造を研究しました。研究の出発点として森重文先生によるハーツホーン予想の解決を挙げることができます。ハーツホーン予想とは「豊富な接束をもつ非特異射影多様体は射影空間に限る」という予想です。幾何学的には、至るところ丸みを帯びている(非特異射影)代数多様体は射影空間と呼ばれる基本的な図形しかないことを主張します。私はこの結果の一般化として、埼玉大学の金光秋博氏と共同研究を行い、接束がネフな多様体の構造定理を得ることに成功しました。Demailly-Peternell-Schneider(以下、DPS)により標数0の代数閉体上ではすでに知られていた結果を正標数の代数閉体上でも成り立つことを示しました。正標数では標数0の時には現れない様々な障害が現れますが、それらを乗り越え、真に新しい手法を確立し問題を解決しました。この結果は学術雑誌へ投稿中です。また、標数0の時に、接束の2階外積がネフな多様体の構造定理を得ることにも成功しました。この結果も前述のDPSの定理の一般化とみなすことができます。この結果はAdvances in Mathematicsから出版されました。
Watanabe K (2021) Positivity of the second exterior power of the tangent bundles. Advances in Mathematics 385: 107757. https://doi.org/10.1016/j.aim.2021.107757
理工系領域